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話題のSELってなに!? アメリカで注目の学習法とは

アメリカのボストンに住む筆者が、日々感じる、日本とアメリカの教育の違いや発見をつづります。今回は私がアメリカに来て初めて出会った学習法 Social and Emotional Learning(SEL)についてです。

 非認知能力の軸の一つである感情の学習ですが、ひいては認知能力(学力の向上)にも影響があると言われているSELについてご紹介します。


Social and Emotional Learning(SEL)とは

「社交性と情動の学習」のことで、具体的には次の5つの力を学習することが目的とされています。

SELで育つ5つの力
①自己認知
②自己管理
③社会認知
④対人関係
⑤責任ある意思決定

アメリカでは60年代からSELの活用が始まり、生徒の問題行動が減少し、学力も上昇することが明らかにされてきました。さらに90年代には「自分の感情を客観的に認識する方法」「衝動をコントロールする方法」「ストレスを軽減する方法」として、実績のある学習法となるのでした。

幼少期における社交性や情動に関する学びが、後々の子どもの学習面、社会面のパフォーマンスに大きく影響していることも調査からわかってきています。そのため、特に小学校の低学年で積極的に採用されているところが多いようです。

【参考】Edutopia ”Social and Emotional Learning: A Short History” https://www.edutopia.org/social-emotional-learning-history

一方、日本には道徳科があります。学習指導要領によると、その目的は『より よく生きるための基盤となる道徳性を養うため、道徳的諸価値についての理解を基に、自己を見つめ、物事を多面的・多角的に考え、自己の生き方についての考えを深める学習を通して、道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度を育てる。』とされています。

【参考】【特別の教科 道徳編】小学校学習指導要領(平成29年告示)解説https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387017_012.pdf

日本の道徳科とSELのコンセプトは似ているところがあるのかもしれません。違いはそのアプローチにあります。

日本の道徳科は学習指導要領にも指摘があるように、他の科目に比べ軽んじられている傾向があります。また読み物の登場人物の心情理解のみに偏った、形式的な指導が行われる例があることなど、多くの課題があるのだそうです。

光村図書「道徳教育の目標と道徳科の目標は違うの?」 https://www.mitsumura-tosho.co.jp/kyokasho/s_dotoku/qa/vol05.html

また、日本社会では一般的に社交性や感情のコントロールといったスキルは、家族や友だち関係のなかで子どもが自然に学んでいくものだと思われがちかもしれません。しかしSELでは、子どもたちが授業のなかで、理論と実証に基づいた教材を通してこれらのスキルを学習していくことを重要視しています。

私がアメリカの教育でよく遭遇する、点数であらわせない非認知能力を、スキルととらえて学習する、典型的な例の一つです。


SELを育むための具体例

昨年度、娘(当時1年生)のクラスで実際に行われていた3つの例をご紹介します。

①Feeling traffic light (気持ちの信号機)
②Comfort station(落ち着く場所)
③Mindfulness breathing(瞑想の呼吸)

それでは、具体的に説明していきます。

Feeling traffic light (気持ちの信号機)

一つ目は、自己認知を目的とした学習で、自分の感情を特定して言語化するトレーニングです。下の図のように、信号の色と感情を結びつけて、子どもたちが自分の感情を客観的に判断できるよう訓練をします。

赤は激しい怒りや不安の感情、黄色は不満が募っている状態、緑が落ち着いてリラックスしている状態を表しています。

各色の隣には、行動の例が書かれます。クラスで話し合ったり、それぞれが書いたり活用のしかたは色々です。

例えば、赤のライトの横には【悪い言葉を言う・壁やモノにパンチする】や黄のライトには【声が大きくなる・頭がガンガンする・泣きたくなる】、緑のライトには【気分が落ち着いている・だいじょうぶ】などと書きます。

娘たちのクラスでは、教室の壁にこの図を貼り、いつでも先生と子どもたちが指標にできるようにされていました。

自分の感情は今何色のライトのところにあるのか、子どもたちが認識する学習法です。

Comfort station(落ち着く場所)

二つ目は自己管理を目的とした、教室内のデザインです。クラスにはComfort stationという一角が用意されていました。テーブルと椅子がセットになったコーナーで、教室の比較的静かな場所に設けられていました。ここには、不安や不満によって感情が高まっている子どもが一時的に着席します。先生からうながされて行く場合と、本人が希望して行く場合、両方があります。活用するタイミングは自由で、授業中に集中できなくて困ったときや、ふとした寂しさから涙が出そうになる子どもなどが使っていました。

Mindfulness breathing(瞑想の呼吸)

三つ目も自己管理の一つの方法として学習した、呼吸で感情を落ち着かせる方法です。学年のはじめのSELの授業がこの呼吸法についてでした。瞑想やヨガといったアクティビティは日本でもよく知られていますが、アメリカでは教育現場でも広く取り入れられています。

色々な方法がYouTubeなどでも紹介されていますが、娘は次のようなものを学んできました。

【軽く目をとじて…】
1. 目の前にある花束の香りをかぐように、鼻から息を吸う。
2. たんぽぽの綿毛を遠くまで飛ばすイメージで、優しく長く息を吐く。
3. 焼きたてのおいしそうなケーキの香りをかぐように、鼻から息を吸う。
4. 誕生日ケーキのろうそくを、自分の歳の数だけ連続で吹き消していくイメージで息を吐く。

Comfort stationに着席した子どもは、この呼吸を試してみることを先生からうながされるそうです。学年の最初のうちは先生が付き添いますが、慣れてくると子どもたちは自ら落ち着くための呼吸法を実践していました。


感情コントロールもスキルで上達

これらのSELの学習内容や方法は保護者にも共有され、家庭内でも取り入れることができるようになっていました。子どもたちが自分の感情コントロールに役立てる方法ですが、親が一緒に活用するのも有効です。やってみると、どのタイプの非認知能力も繰り返すことでスキルが身につくのだということを実感します。是非ご家庭で取り入れてみてはいかがでしょうか。


こちらもぜひ!アメリカ流!褒めの文化【非認知能力とはNo.28】


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