デジタル社会とプログラミング教育
デジタル化が進み暮らしが便利になる一方で、「うちの子は予測不能な時代に付いていけるのか?」と子どもの将来に不安を覚えるご家族は少なくありません。
そんな中、2020年より小学校をはじめとする義務教育に導入された『プログラミング教育』は、大きな期待と注目を浴びています。
そもそも『プログラミング教育』とはどういったものなのでしょうか?
実はこの教育プログラムの背景には、「子どもの生きる力を伸ばそう!」という日本政府の方針があるようです。また、これは認知能力(IQ)と同様に重要とされる非認知能力とも深い結びつきがあります。
今回は、プログラミング学習と子どもの生きる力の関係についてご紹介します。背景を知ればおうちでの子育てに取り入れることも出来るので、是非最後までお付き合い下さい。
デジタル社会において遅れをとる日本
『世界デジタル競争力ランキング』というものはご存知でしょうか?
あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、これはスイスの国際経営開発研究所(IMD)が、世界の主要63カ国を対象として『デジタル競争力』を評価したランキングのことをいいます。
評価基準は、『知識』『技術』『将来への備え』の3部門に分かれています
・『知識』→ 人材・研修および教育・科学においての取り組み
・『技術』→ 資本・技術の枠組み・規制の枠組み
・『将来への備え』→ 適応する姿勢・ITの統合・事業変革の機敏性
技術大国として知られる日本は当然上位に入るかと思われていましたが、2020年の世界デジタル競争力ランキングの総合順位はなんと63カ国中27位と低く、前年の23位から更に順位を落としました。
世界のTOP5は、1位から米国・シンガポール・デンマーク・スウェーデン・香港でした。また、アジア太平洋地域におけるトップはシンガポール。それに続いて香港・韓国となっています。
・IMDデジタル競争力ランキング、スイス6位、日本は27位へ後退(スイス、世界) | ビジネス短信
・Rankings published by the World Competitiveness Center – IMD
さて、ここで注目すべきは日本の総合的な順位ではなく、「評価が高かった項目」と「低かった項目」にあるようです。
総合順位の低かった日本ですが、世界TOP3に入る「高い評価を受けた項目」は5つもありました。それらの項目は下記の次の通りです。
『知識』部門
・生徒と教員の比率(高等教育)/1位
『技術』部門
・モバイルブロードバンド利用者数/1位
・ワイヤレスブロードバンド普及率/2位
『将来への備え』部門
・世界におけるロボットの流通量/2位
・ソフトウェア著作権侵害対策/2位
IMD World Digital Competitiveness Ranking 2020 p.100,101
https://www.imd.org/globalassets/wcc/docs/release-2020/digital/digital_2020.pdf
逆に「低い評価を受けた項目」となった4つは驚くべきことに『世界最下位』で、総合的に足を引っ張る形となりました。それらの項目は次の通りです。
『知識』部門
・人材の国際経験
『将来への備え』部門
・企業における機敏性
・機会と脅威の対応
・ビックデータの活用と分析
専門的な用語が入ってきますが、日本の弱みは『人材』にあるのです。
専門家たちの分析によると、『世界デジタル競争力ランキング』で上位を取った欧米諸国は、技術力はもちろんのこと、「デジタルリテラシー教育」に長けているということです。
このリテラシー教育は小学校などに取り入れられているようで、子どもたちに「デジタル化が進む世の中で、人間はAIやロボット達とどのように付き合っていくべきか」を教えているといいます。
日本政府としては、こうした「人材育成」といった面で、日本が世界に遅れをとっていることを懸念しているようですね。
この『世界デジタル競争力ランキング』の件を踏まえた上で、日本がはじめた『プログラミング教育』の背景をみていきましょう!
プログラミング教育の背景
日本が『プログラミング教育』を導入した背景には、急速なグローバル化と情報化によって先行きが不透明になってしまった社会で、子どもたちが幸せに生きていくために重要な能力を伸ばしていく必要があると考えられているからです。
人工知能研究の世界的権威といわれる米国のレイ・カーツワイル氏は、2045年にはAIといった『人工知能』の能力が人類の知能を超えると発表しました。
また、オックスフォード大学のマイケル・オズボーン氏による研究では、これから10年から20年という短いスパンの中で、日本における約半数の仕事が人間からロボットに変わることが明らかになっています。
これが現実になると、多くの人間の仕事をロボットたちが奪ってしまうことになりかねません。便利になる一方で、人間にとっての脅威となる可能性があるのです。
もしそうなった場合、「将来、子どもたちは一体どんな職について、どうやって暮らしていくのか?」という疑問と不安が渦巻くのは自然なことではないでしょうか。
『プログラミング教育』はこうした事態に備えたものです。
激しい変化が繰り広げられる世の中では、システマティックに物事を捉えるだけでなく、直面する物事を柔軟に受け止める『感性』が必要になってきます。
そして、その感性を働かせることにより「どうしたら自分の人生が豊かになるのか?」「どうしたら社会が良くなるのか?」といったことを自身でしっかりと考え、主体的に試行錯誤を続けることで「よりよい社会と幸福な人生の創り手」になってもらうことが、日本政府が『プログラミング教育』のめあてとして掲げていることでもあります。
こうした感性と姿勢こそがまさに、非認知能力と子どもの生きる力なのです。
このように『プログラミング教育』といっても教えることは技術ではなく、あくまでも「捉え方」や「取り組み方」を子どもに伝えることが重要視されています。
「学校でプログラミングを教えてくれるなら全てお任せしようか?」と思われるかも知れませんが、突然学び始めるよりは、上手に吸収するための下地作りをおうちでしてあげると子どもにとって大きなアドバンテージとなります。
最後は、『プログラミング教育』の主眼のひとつであり非認知能力でもある、子どもの『多様性』をおうちで事前に身につけておく方法をご紹介します!
おうちで実践しましょう!
子どもの『多様性の』を伸ばす方法はいくつかありますが、そのひとつに「広い世界をみせてあげること」があります。
『世界デジタル競争力ランキング』における日本の弱みにも挙げられていますが、『国際経験』の少なさ、つまりは視野の狭さはこれから子どもが生きていく上で「不利」になってしまいます。
実際に海外へ連れて行ってあげることが一番かもしれませんが、インターネットの発達した現代ではおうちで世界を見せてあげることができます。
大切なのは、子どもに「こんなにも世界は広くて、考え方もたくさんあるんだ!」という発見をさせてあげることです。
まずは、世界のことが楽しく分かる本を子どもに読み聞かせてあげて下さい。
異国での旅日記が挿絵付きで面白おかしく書かれている、小説家の妹尾河童(せのおかっぱ)さんの『河童が覗いた』シリーズなど、親子で楽しめるものがいいですね。
世界地図や地球儀を見せながら、「これはここの国のお話だよ」と語ってあげることで、子どもの「世界」はどんどん広がります。
「めくってはっけんせかいちずえほん」学研:https://hon.gakken.jp/book/1020348900
「ザ・マップ ぬりえ世界地図帳」日本文芸社:https://www.nihonbungeisha.co.jp/book/b329350.html
世界をみることで、「見方はひとつではない」「答えはひとつではない」という、多様性を受け入れる力が身につき、子どもは『プログラミング教育』などの新しい学びをよりスムーズに受け入れることができるようになります。
その他にも今はインターネットでも「世界の国々」を紹介する動画がたくさん配信されています。
NHK「世界ふれあい街歩き」:https://www6.nhk.or.jp/sekaimachi/archives/europe.html?cid=12
NHK教育「カラフル」(NHK for Schoolのサイトから無料で視聴できます):https://www.nhk.or.jp/school/tokkatsu/colorful/
動画の場合は流し見せをするのではなく、「この国ではこうなんだね」「これどう思う?」など会話しながら一緒にみてあげて下さい。そして子どもが不思議に思う点があれば、一緒に調べて学ぶことで親子の仲も深まります。
『柔軟性』はロボットたちには無く、人間にしか持てない非認知能力です。広い世界をみせることで子どもたちの生き抜く力を伸ばし、デジタル社会に適応する準備をしてあげましょう!