アメリカのボストンに住む筆者が、日々感じる、日本とアメリカの教育の違いや発見をつづります。今回は【教える教育】と【導く教育】についてです。
「教える」より「導く」
日本での教育は、教える意味合いが強いのに対し、アメリカでの教育は導くものだと考えられています。幼児教育や小学校の授業・習い事では、正しいやり方を教えるよりも、むしろ間違えることや失敗することをかなり積極的に推奨しています。先生や指導者は正解や正しい方法を教えるというよりも、子どもたち自身に気づくチャンスを与える存在です。その導きというのは、例えば算数の問題への取り組み方から、仲間内で起きるケンカの解決まで幅広く、もどかしくて手っ取り早く正解を伝えたくなってしまう私には、彼らの懐の広さを感じずにはいられません。
娘の学校の担任も『間違えること大歓迎!』な先生で、子どもの発表した答えが間違っていると「最高にクールだね!この瞬間が大好きだよ先生は!」と興奮気味に言って子どもたちの自己肯定感を育ててくれるのです。
あるクラスメイトのママさんと個人面談について話したとき、彼女が先生に言われたことを教えてくれました。「お嬢さんはとても正確に算数の問題を解くことができます。これは本当に素晴らしい!ただ、いつも正しい自分でいたいと思っているように見えます。失敗しそうなことや間違いが怖いようです。私は彼女を励ますので、家でも失敗は良いことだと伝えつづけてくれますか?」と。とにかく先生は失敗することへのハードルを下げたいと願っているのがわかります。
導く教育は習い事でも
日本で子どもに習い事をさせていたとき、うまく教えてくれる先生について、少しでも子どもを上達させたいと願っていたように思います。最初から正しいやり方を伝えてくれる方法は、知識という道具を効率よく手に入れる方法だからです。
一方アメリカでは、子どもが自ら学ぶ力を引き出したり、きっかけを提供したりすることで、子どもが興味を持ったことについて、自ら深く学ぶことがより求められています。
コーチや先生という立場になる人は、生徒をやる気にさせたり、鼓舞したりするのがうまい人が多いのも納得です。
教育への考え方がこれだけ異なるので、指導者のスタンスは自然と日本のものとは違ってきます。
子どもたちが通っているスイミング教室では基本的にコーチは水に入りません。日本のスイミング教室では、体の使い方や泳法を手取り足取り丁寧に教えてくれました。一方アメリカでは、全く泳げないレベルをのぞいて、コーチはプールサイドから見本をやって見せたりアドバイスするのみ。子どもたちは見よう見まねで泳げるようになるという感じです。
我が子たちも「息継ぎを工夫してみたら、疲れないで長く泳げた!」や「速く泳ぐ友だちを観察して、手の角度を真似したらタイムが上がったよ。」などと言うようになり、本人たちの考えに任せる指導方法の効果を目の当たりにしています。
また、息子の所属する野球チームで感じるのは『自分で正解を見つける喜び』を大切にしていることです。
スキルを強化するためのレッスンプログラム以外では、基本的に『思いきり楽しむこと』のみが指導されます。コーチはバッターボックスに立つ子どもたちに「三振してもいいから、とにかく思いきり気持ちよくバットを振ってこい!」と声をかけます。実際に三振でも「ナイススウィング!かっこよかったぜ!」という感じでほめまくります。
野球のようなスポーツは必ず勝ち負けがつくものです。上手くいかなかったことは子ども本人が一番わかることだし、それに追い打ちをかけても楽しくなくなるだけです。野球を好きになって欲しい。好きなことだからこそ、もっと上達するために本人が考え、答えを見つけることができる。そこに最大の喜びがあるとコーチは考えているそうです。
限られた時間の中で重視するものの違い
この日本とアメリカの教育・指導の違いは、『限りある時間のなかで教育に何を求めるか』で生まれた違いだと考えられます。どちらが正しくて、どちらが間違っているというのではなく、『教える教育』と『導く教育』とにはそれぞれメリットがあるのです。
【日本で主流の『教える教育』のメリット】
・得られる効果の個人差が少ない
・得られる知識の量が多い
・受験に有利
【アメリカで主流の『導く教育』のメリット】
・得た知識が定着・更新しやすい
・能力が他のことにも応用できる
・個性が色濃くあらわれる
ここに挙げた以外にもメリットは多くあると思います。最近ではそれぞれの利点は日本でもアメリカでも需要があります。日本では学習指導要領や大学入試センター試験が見直され、考える力などの非認知能力が重視されています。一方ボストン界隈では学習塾の人気があります。日本で有名な公文式はアメリカでも人気で、たくさんの教室があります。ロシア式算数という数学教育の塾も多くあり、教育に熱心な親は様々な指導方法のメリットをバランスよく取り入れようとしています。
たくさんの知識と応用力で鬼に金棒
『教える教育』で手に入れるたくさんの知識と『導く教育』で手に入れる自分で考える力、どちらも力強く生きるために欠かせません。たくさんの道具を携えて未知の問題を解決することができたら、子どもたちの未来は明るいのではないでしょうか。