はじめに
アメリカのボストンに住む筆者が、日々感じる、日本とアメリカの教育の違いをつづります。
今回は多文化社会でのコミュニケーション教育についてです。前回はアメリカで盛んに議論されている、非認知能力についての研究を紹介しました。
実際に子どもたちが通う学校では、非認知能力を伸ばす教育が実践されているのを感じます。理由はいくつかありますが、なかでもコミュニケーションの能力を伸ばすチャンスが多いことがあげられます。
昨今日本ではコミュニケーション能力が重要視されています。同じくアメリカでも重要な能力の一つとされていますし、多人種・多文化のこの国では、より必然性の高い能力なのかもしれません。
多文化都市・ボストンのコミュニケーション教育
アメリカ特有、特にボストンだからと言えるかもしれませんが、ここに暮らす人々には『各個人がかなり違った価値観やバックグラウンドを持っている』という認識が大前提としてあります。
そのような環境で、どのように人と関わるかを学ぶことは、非認知能力を高めることと深く関係しています。
我が子の小学校では毎年学年の始めに、保護者向けのカリキュラムナイトという集会があります。その中で、息子と娘が受けている授業には、次のようなスキルを伸ばす目的があると説明をうけました。
1.自分の考えをまとめるスキル2.考えを伝えるスキル
3.他の人の考えを理解するスキル
4.他の人との違いに理解を深めるスキル
特にライティングやリーディングの授業でこれらを目的としたカリキュラムがよく見受けられます。
例えば、先日息子(4年生)のクラスではライティングの授業でディベートが行われました。お題は『年々数の減りつつある全国の映画館は、なくなってしまってもいいかどうか?』です。
「なくなっても良い」と思うグループと「なくなっては良くない」のグループに分かれ、次のような流れで学習したそうです。
自分自身の考えと理由をメモの形で書く。
↓
同じ考えのグループで共有する。
↓
対する考えのグループと意見を交わす。
↓
元の考えと他の人の考え(同じサイドと対するサイド両方)をふまえて、最終的な自分の考えを文章にまとめる。
この学習には、一人ひとりの価値観や固定観念に気づくチャンスが用意されています。また上記1.の【考えをまとめる】と2.の【考えを伝える】が繰り返されていて、効率よく回数を重ねているのがわかります。
まずメモを書く段階では、自分の映画館や映画への価値観、日頃の利用の仕方が色濃く出る傾向があると思います。これは一回目の【考えをまとめる】段階です。続いて同じサイドの他の生徒とメモの内容を共有することが、一回目の【伝える】段階です。
相対するサイドの生徒たちと意見を交わすことで、二回目の【伝える】機会となります。
最後の文章を書く段階で、二度目の【考えをまとめる】ことができます。
息子いわく、このようなディベートの授業で出る意見には、すんなり納得できるものもあれば、さっぱり意味のわからないものも多くあるそうです。
これこそが授業の重要なポイントと言えます。
このディベート中に、ある生徒が「映画館はなくなっては困る、なぜならバースデーパーティーが出来なくなるからだ。」と言ったそうです。この時、他の生徒たちから「映画館とバースデーパーティーの関係はどこにあるの?」と質問があったとのことです。
アメリカでは、子どもの誕生日会を色々な施設を利用して開くことがあります。映画館でも誕生日会サービスを提供しているところは多く、文化として定着している面があります。
ただ、先にも触れたようにここは多様性の大きな地域。人種や家庭によって常識はそれぞれかなり異なります。自分にとっての常識が、他の人にはまったくピンとこないものであることが多々あるのです。
「映画館=誕生日会を開く場所」という考えは、万人に伝わりやすいものではなかったようです。
この例のような学習の頻度は高く、様々な常識を持ち寄った生徒たちが意見を発表し、わからないことは質問をしあう機会になっています。自分の考えの偏りや、伝え方のコツに気づく癖をつける狙いがあるそうです。
コミュニケーションはスキル
小学校での取り組み方を見ていると、コミュニケーションスキルは、訓練をすることによって伸ばせる能力と捉えられていることがわかります。筋トレと同じように、回数をこなしていくことで、向上・強化しようという考えです。
非認知能力に対するこのような考えは、日本でも提唱されて久しいので、すでに取り入れている保護者や教育者の方もいるかもしれません。
【参考】https://berd.benesse.jp/up_images/magazine/018-021.pdf
子どもの未来に大きく影響する非認知能力。訓練でどうにかなるとすれば、親としてはぜひ手助けをしたいですね。家庭内の会話にコミュニケーションの訓練を取り入れてみるのはいかがでしょうか。訓練と言っても特別なことではなく、普段の会話に少し意識を向けてみるということです。
親は子どもの言いたいことを先読みしたり、言葉足らずでも理解出来たりします。些細なことでも、あえて子どもに詳しく説明させたり理由を聞いてみたりすることで、人に伝える難しさを経験できるし、コツをつかむチャンスになります。
子どもに伝わりやすい話し方を求めると同時に、私自身、子どもに対して適当な話し方をしていることに気づきました。
親も子も一緒に伝え方・聞き方について見直すことは、同じ目標に向かうという体験の共有になります。一方的な教育とは違った感覚で取り組めるのではないでしょうか。
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