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非認知能力って何?? in アメリカ【非認知能力とはNo.26】

アメリカのボストンに住む筆者が、日々感じる、日本とアメリカの教育の違いや発見をつづります。今回は世界で注目されている非認知能力についてです。

非認知能力とは

辞書によると非認知能力とは『個人の能力のうち、いわゆる「認知能力」には該当しない種類の能力の総称。学力テストや知能テストなどによる指標化が難しい、性格や気質に属する能力。』とされています。厳密には「生きる力」は認知能力と非認知能力が合わさった能力のことですが、世間では「生きる力」や「世渡り力」、「社会での実力」などとも言い表されています。

文科省の新しい学習指導要領のテーマも「生きる力 学びの、その先へ」。小学校では2020年度から、中学校では2021年度から導入されています。

子どもたちが未来を切り開いていく力(非認知能力)を重要視した内容となっているようです。

【参考】https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/index.htm

盛んな非認知能力の研究

非認知能力は日本だけでなく、世界中で研究が進んでいます。とりわけ欧米では、以前から盛んに議論がされてきました。すでに沢山の研究によって、幼少期に非認知能力の発達を促された子どもたちは、そうでない子どもたちに比べて将来成功する傾向にあることが証明されています。ここでいう成功とは『卒園後の成績や生活態度の良さ、成人後の収入が高いこと、犯罪率の低さ』などを指します。

【参考】ペリー就学前プロジェクト https://ja.wikipedia.org/wiki/ペリー・プレスクール・プロジェクト

現在も進行中の研究で有名なものとして、シカゴ大学の経済学者ジョン・リスト教授のプロジェクトがあげられます。

2009年、シカゴ郊外に「シカゴハイツ幼児センター(CHECC)」という、幼稚園と保護者向けの教育研究センターが設立され、教育現場を舞台に先駆的な実験が行われました。現在でもその追跡調査が続けられています。この場所はシカゴの中でも貧困層が特に多い地域で、研究対象も主に貧困家庭の子どもたちです。

ここでは、全国の学校でも活用できる教育手法を特定することが目的とされています。

教育への家族の関わりを強化し、子どもたちを将来に続く成功への道へと導くため、効果的な方法について研究されました。

プロジェクトのポイントは主に3つあります。

1.長期にわたる追跡調査が実施されること。
2.「認知能力」を伸ばす教育プログラムと「非認知能力」を伸ばす教育プログラムを、それぞれ違うグループの子どもたちに施すこと。
3.保護者に対する教育プログラムがあること。

子ども達に良い効果を与える、最良の教育方法を見つけるため、被験者に対する条件は細かく分かれています。

グループごとに実験条件を細かく変えた結果、やはり幼少期に非認知能力を伸ばす教育プログラムを受けたグループはその後の収入が高く、犯罪率は低いことなどが証明されています。

【参考】The Chicago Heights Early Childhood Center 

では、先ほどの2つ目のポイントにある『非認知能力を伸ばす教育プログラム』とは、どのようなものでしょうか。

リスト教授の研究では、近年早期教育の現場で導入されるようになった「心の道具箱」(Tools of the mind)と言われる手法がとられているそうです。

例えば以下のような指導方法があげられます。

現実的な言語の実践
従来のような、文字や単語、またはフレーズのドリルを行う代わりに、遊びやゲーム、手紙のやりとりなどに出てくる言葉を通じて言語を学習・洗練していく方法です。より現実的な言葉の使われ方を学ぶためのアプローチをします。

書くことやお絵かきによる思考の整理
子ども達はお絵かきや落書きがとても好きですよね。これらの活動が学習プロセスに組み込まれると、非常に関心をひき、熱心に取り組むとされています。与えられた課題に対して、自分のアイデアや気持ちを絵にしたり日記にしたり、スケッチブックに書き留めるなどの方法をとらせると、子ども達は熱心に取り組むことができるそうです。これはグループで絵を描いたり、マインドマップを作るという広げ方もできる手法です。

選択と自律を奨励する
子ども達を精神的に刺激する最も良い方法の一つとして、子どもの意見を求め、選択肢を与えることをします。課題がどのようなものでも、子どもが情報を受け取るだけの受動的なアプローチではなく、積極的な学習アプローチを奨励する実践方法です。これにより、子どもは課題を継続し、結果を自力で手に入れる感覚を受けるとされています。

【参考】Tools of the mind

Implementing “Tools of the Mind” in the Classroom
https://resilienteducator.com/classroom-resources/5-important-tools-of-the-mind-for-teachers/

History https://toolsofthemind.org/about/history/

一見すると遊びの延長のような教育アプローチですが、周りの大人たちが意識しなければ、意外と取り入れていない手法のように感じます。リスト教授の研究でも、親に対する教育がされているように、親の意識が重要であるのです。それを強調するかのように、教授らの研究論文には、オバマ元大統領のスピーチの一節が引用されています。

There is no program or policy that can substitute for a mother or father who will attend those parent-teacher conferences or help with the homework or turn off the TV, put away the video games, read to their child. Responsibility for our children’s education must begin at home.

(先生との面談に出る、宿題を手伝う、テレビを消す、ビデオゲームから遠ざける、子どもに本を読んであげる。これらをしてくれる母や父などの代わりになり得るプログラムや手段はないのです。子どもの教育の責任は、必ず家庭から始まるのです。)

 –Barack Obama in an address to a Joint Session of Congress 2009  
https://obamawhitehouse.archives.gov/the-press-office/remarks-president-barack-obama-address-joint-session-congress

親が一緒に学ぶ姿勢、意識をもって教育に関わる姿勢が大切であると主張しています。

非認知能力の重要性は証明された。さて親はどうする?

ついつい子どもの行動や決断に口を出したくなるのが親心。

スーパーのお菓子売り場で選ぶお菓子一つにしても、子どもの選択を尊重してみる。困ったことがあったときも、相談されるまで待ってみる。失敗も含めて非認知能力の向上には欠かせない経験なのだと、こちらで過ごすようになって強く感じています。

アメリカで、大人が子どものことを一個人として尊重する姿勢はよく見受けられます。学校でも家庭でもです。長く議論され続けている非認知能力を伸ばす研究が、広く知られ、大人の姿勢を促す一因になっている可能性もあると感じられます。

我が家の子どもたちの通う現地校でも、非認知能力を伸ばす研究が大いに反映されていると感じます。次回はこちらの学校教育で、どのように非認知能力が伸ばされているかを具体的にお伝えしていきます。

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